さよなら、もう一人のわたし
 わたしたちは伯父さんたちのいるという奥の明かりがついている部屋まで歩いていく。
 尚志さんが扉を開けると、すんなりと開いた。
 彼はそこから部屋の中をのぞき込む。

「伯父さん、俺だけど」
「こっちだ。こっち」

 明るく低い声が部屋の奥から聞こえてきた。

「ちょっと待っていて」

 尚志さんはそう言い残すとわたしを玄関先まで招き入れ、靴を脱ぐと部屋の奥に消えていく。
 入り口付近にはスチール製の壁があり、どこかのオフィスのようだった。掃除が好きだという話も納得できるほど、綺麗に整理されていた。どんな人なのだろう。

 覗きたい欲求にかられていると、尚志さんが戻ってきた。

「奥に来てもらえる?」

 わたしは尚志さんと一緒に奥の部屋に行く。ドアを開けると、そこには体つきのがっしりとした長身の男性が立っていた。彼は前方を見据えている。

 彼の瞳がわたしを見る。

「君が平井京香さんか」

 彼はわたしを視界に収めた直後、目を見張った。
 その目で姿をとらえられるとまるで言葉を忘れてしまったかのように言葉が出てこなかった。
 何だろう。わたしは理由もわからず、彼に魅入っていたのだ。ずっと忘れていた昔のおもちゃを見つけたような……。

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