さよなら、もう一人のわたし
「伯父さん、話をしないなら俺が進めるよ」

 尚志さんが困ったような声を出した。
 彼が我に返ったように目を見開く。
 そして、目を細めた。
 彼の瞳が優しくなった。

「悪い。寝不足でね。二人で話をさせてもらっていいか?」
「いいですよ」

 尚志さんは笑顔で答え、わたしを見る。

「伯父さんは変な人だけど危険な人ではないから安心していいよ。俺も隣の部屋にいるから」

 尚志さんはわたしの頭を撫でた。人の気持ちをなだめるときにする仕草なのだろうか。わたしは彼の言葉に頷いた。

「変人は余計だよ」
「本当のことだから」

 尚志はにやっと笑うとそのまま部屋を出て行く。

「そこに座って」

 彼は顎で彼の向い側のソファに座るように促した。
 わたしは彼の正面の席に座る。

「君はどうして女優になりたい?」

 その伯父さんはわたしを一瞥して穏やかな口調で尋ねてきた。

「水絵さんに憧れているからです」
「それは千春から聞いた。だが、水絵はやめた。この世界から逃げ出すためにね。それでも君は彼女に憧れていると言えるかい?」
「水絵さんが?」

 始めて聞く話だった。

 彼は頷いた。

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