さよなら、もう一人のわたし
 そこで二人は別れるシーンがある。

「次」
「あの、一つ聞いていいですか?」
「なんだい?」
「セリフ覚えているんですか?」

 千春の伯父さんは目を細めた。

「覚えているよ。一通りはね」

 わたしは次のページを捲る。
 そのページを捲ったとき、雨の中で傘を差している果歩の映像が思い浮かぶ。前さえも見通すことができない状況なのに、彼女は雨に垣間見るようにして彼の姿を見つけたのだ。

「何しているの?」

 沈黙が訪れる。声をかき消すほどの雨音が辺りを包み込んでいた。

 彼は果歩をキッと睨む。
 普通なら怒ってしまうその姿が雨音のせいなのか、彼の瞳に何かを見たからなのか果歩はあまりに痛々しく感じてしまったのだ。

「余計なお世話だよね。……ごめんね」

 言葉を噛み締めるように歯切れの悪い口調でそう告げた。
 きっとこのとき果歩の彼に対する気持ちが変わったと思しきシーン。

「次」

 余韻に浸る間もなく次のページに行くことを促された。
 果歩が彼に自分の気持ちに気づくシーンだった。
 夕暮れの中、あれ以降一言も話をしてくれない彼に苛立ちを感じつつも惹かれていく彼女がいた。

「わたしのこと嫌いなの?」
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