さよなら、もう一人のわたし
 確かに似ている気はする。
 だが、驚く心のほうが優っていた。

「わたし、水絵さんと彼女の大ファンだったんです」

 仁科の名前を出したとき、千春が大笑いしたのはそういうことだったのだろう。

「そうなのか。だから千春は自分の話題を出さないようにと言っていたんだな」

 彼は苦笑いを浮かべていた。

「でも言ってますよね?」
「どうせ知られることだろうし意図的に隠すのもおかしな話だろう? 君の実力はだいたい分かったつもりだ。君がどれだけこの映画を好きでいてくれるかも。でも、少し考えさせてくれないか?」

 彼は浮かない表情を浮かべている。
 わたしは頷いた。
 彼の迷いは当然だった。

 千春とわたしでは全てにおいて違いすぎる。
 千春はわたしがあの映画を好きだからと言った。わたしにとって彼女に勝っているのはその気持ちだけだった。


「ありがとうございました」

 わたしは深々と頭を下げ、部屋の外に出ようとした。
 わたしは呼び止められ、足を止めた。


< 62 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop