さよなら、もう一人のわたし
 わたしはお礼を言うと、わたしは身支度を整え、教室を出ようとした。

 扉のすぐ近くに女の子が立っているのに気付いた。成宮千春だ。

 千春は右手を挙げて、わたしに挨拶をした。

「もう来ているなら、声をかけてくれればよかったのに」

「あなたを観察していたの」

 彼女はそういうと、無言で歩き出した。

 観察って、そんなに見ても面白い行動はとっていないのに、何を考えているんだろう。

 不思議におもいながらも、彼女のあとについていくことにした。



 千春がやっと口を開いたのは、学校の門をくぐった後だった。

「あなたは女優になりたいの?」
「なりたい」

 わたしは即答する。

「どうして? 注目を浴びたい? 大金を稼げそう?」
「違うよ。会いたい人がいるの」

 千春はその言葉にああ、と呆れたように微笑む。

「好きな俳優とか? そういう子多いよね」

「好きといえば、好きなんだけど、女優さん。成宮さんは知らないかもしれないけど、二十年くらい前の映画をやっていた人で、高木水絵さんっていう人」

「高木水絵」

 千春は呆然と見つめていた。でも、彼女の表情はわたしが名前を挙げた人を知らないという表情ではなかった。
 まさかその名前が出てくるとは思わなかったとでもいいたそうな表情だった。
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