さよなら、もう一人のわたし
 だが、涙というものは手や足と違って自分で完璧に操作できるものではなかった。
 わたしの目から涙が零れてきた。

「家のごたごたに巻き込んでしまって悪かったな」

 尚志さんはそう言うと、わたしの頭を撫でた。

 わたしは首を横に振っても目から涙が溢れてきた。

 わたしは思わず尚志さんの腕をつかんだ。

 誰かにすがりつきたかったのだと思う。

 彼はそんなわたしを引き剥がすこともなく、肩を抱くと、雨が降り続くのにも関わらずずっと傍にいてくれた。
< 70 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop