さよなら、もう一人のわたし
 わたしは誰もいない教室でため息を吐いた。
 授業が終わり、もう誰も残っていなかったのだ。昨日のことを思い出し、顔が赤くなる。
 それは二人の伯父にあいにいったことではなく、尚志さんに抱き付いてしまったことだ。

 あのときは悲しくてそれどころではなく、自分がしたことに気づいたのは家に帰った後だった。
 自分から男の人に抱きつくなどどうにかしていると思う。
 その上、雨の中でずっと一緒にいてくれた彼が風邪でも引いたらどうしたらいいだろう。

 考えれば考えるほど、頭の中が混乱してきてしまいそうになる。
 わたしが机に顔を伏せていると、わたしの机に影が映った。

 顔を上げると千春が立っていた。
 彼女は明るい笑顔を浮かべている。

「昨日どうだった?」

 誰からも昨日の話を聞いていないのだろうか。
 ダメだったとは言い出せなかったのであいまいに答えることにした。

「分からない」
「伯父さんも変な人だからね」
「尚志さんも言っていたよ」
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