さよなら、もう一人のわたし
「お兄さん、何か言ってなかった?」

 わたしは顔が赤くなるのを実感しながら千春に聞いた。

「お兄ちゃん? いつもどおりだったよ」

 彼女はアイスをなめながら、首をかしげる。
 ホッとしたような複雑なようななんともいえない気分だ。
 彼にとってその程度のことだったのだ。
 わたしにとっては一大事なことだったけど。
 彼女の瞳が面白いものを見つけたように微笑む。

「何かあったの?」
「何もないよ」
「アヤシイ」

 彼女は悪戯っぽく微笑む。

 昨日、尚志さんにからかわれたことを思い出していた。
 兄妹揃ってわたしをからかっているのだろうか。そう考えると、何だか恥ずかしくなってきた。
 わたしは強引に会話を切り替えることにした。

「何もないって。そういえば伯父さんから聞いたよ。秋ちゃんのこと」

 千春の顔が引きつる。

「あのじじい」
「隠す必要はないからってさ」
「わたしにとっては黒歴史なんですが」
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