さよなら、もう一人のわたし
「知っているの?」
「昔の映画でね。そんなマイナーな人、もう芸能活動していないよ」

「それでも会えるかもしれないでしょう」
「だったら無駄よ。そんな理由だったら目指すだけ無駄だと思う」
「でも、もう一人いるの。仁科秋」

 千春は目を見張る。だが、彼女は突然笑い出した。
 彼女が一体何を考えているのかさっぱり分からない。

「あなたいいセンスしているわ。仁科は正直どうかと思うけど、気に入った」
「何で?」

 千春は肩をすくめて、ただ笑うだけだった。

「彼女たちに会って、どうしたい?」

 逆に聞かれて困ってしまった。会うことに精一杯でそこまで考えていなかったのだ。
 それこそ憧れの人に会いたいと思うだけで。

「言い直すね。ならなぜ、女優になりたいの? 志した理由は別にあるの?」

「その二人の演技を見てすごいって思ったの。引き込まれて、何も見えなくなる。わたしもそういう風な女優になりたいと思った。それに月並みだけど、女優っていろんな人の人生を演じられるから素敵だなって思っている。だって出ているドラマや映画の数だけ人生を演じられるのだから」

「そっか」
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