大切な人へ

「もう洗う?手伝おうか」

『いいですよ くつろいでて下さい』

そう言って私はテレビをつけて背を向けた



黙々と洗い終わり振り向くと

先生はベットの上で壁に寄りかかり
座ったまま寝息をたてていた



時計を見るともう12時を過ぎてた


キッチンにもたれて先生を見つめる


今日も朝から仕事してたんだよね?
花火までに終わらせてくれて
こんな時間まで一緒にいてくれて

疲れちゃったよね ごめんなさい


でも嬉しいです

ありがと 先生



そっとテレビを消して
足音をたてないようにお風呂に向かった



何も身にまとわない 鏡に映る自分の姿を見つめ
今日先生に触れられた体を洗う…
その感触はまだ覚えている


トクン… トクン…


少し早い振動は
心地いい様な
苦しい様な

不思議な感じがした



髪も乾かし歯も磨いて部屋に戻ると
彼は先程の場所のまま倒れてしまったように
丸くなって寝ていた

体の半分くらいまで布団をかける


ふふっ 可愛いなぁ

そっと近付いて見た寝顔はとても可愛いくて
年上の人に失礼かもしれないけど…


愛おしい



そんな言葉が似合う気がする


初めて抱く そんな甘い感情に浸る



彼の長い前髪をゆっくり横に流す

この髪の奥にこんな優しい瞳があるなんて

始めは知らなかったんだ



教壇の上ではいつもポーカーフェイスで

笑うことも、笑わせることもない先生

でも好きになって、先生を目で追うようになって

普段はたまに笑ったり

優しくて気さくだってことも知ったの



話す相手の生徒が女の子だったりしたら

私みたいに好きになっちゃうんじゃないかって

心配になったりしてます



勝手だけど…

少しでもいいから、先生の特別になりたいな






少し目元の近くに手を伸ばしてみる 反応はない


寝てるよね?



そっと顔を近付け

目の少し下に


音のしない小さなキスをした



『おやすみなさい…』



使われてない枕をとって私はベットの横で寝た




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