ラブ パラドックス
「身長デカくても仕事は細かいわよ」


はは、と鞄を持って立ち上がる。もうやだ。何言ってんのわたしバカみたい。


「帰ろう。あー疲れた。お腹すいた」

鞄をひったくるように持ち、ドアに駆け寄る。


「電気消すよ」

パチン、と一つ。照明を消し、振り返る。


——と、それを妨げたのは、ほかでもない、夏目くんで。

すぐ後ろにいた夏目くんに、右半身が大きく触れる。


びっくりして、壁に向き直った私の目に映る、大小二つの影。


「見ろよ。お前小せえし」

空調も止まりしんと静まり返った室内に、私の心臓の音が響くんじゃないかと思うほど、はやる鼓動。

ドキドキしすぎて何も言えない。


「髪さらさら」

夏目くんの指が毛先を弄ぶ。クルクルと指先に巻き付けパっと離すと、髪の毛が踊る。


「トリートメントしてるから」

「それ聞いた。お前んちのトイレで」

「やー!それやめて!」


大きい影が動いた。小さいそれに重なったかと思うと、耳元で聞こえた、ささやき。


「葉月」


もうだめ。心臓止まりそう。
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