ラブ パラドックス
お礼を述べて立ち上がり、駅へ向かおうと一歩を踏み出すと、夏目くんが「おい」と立ち止まる。


「帰ろうとしてんじゃねえよ」

「は?」

「変わるためには行動しろって言われたばっかりだろ?」

「今日がターニングポイントともね。でももう今日は終わるでしょ?」

ほら、と腕時計を見せつける。今日はもうあと10分しかない。


「10分もあるじゃねえか。もう一軒行くぞ。付き合ってやる」

「えー、布団が恋しい」

「人生が変わるほどの出会いがあるかもしれないのに?」

「...行きましょう。高収入のイケメンで溢れかえってる店へ」

「変わり身早っ」


大笑いする夏目くんを見ると、なんだか楽しくなって一緒に笑う。笑いながら、こっそり葛藤していた。

占いを100%鵜呑みにするわけじゃないけど、でもちょっと当たってたし、参考にして損はなさそうだし、でももう帰りたい。

満足するまで笑った夏目くんが「あー腹痛い」と笑いを一区切りさせた。


「で?どうすんだよ」

「ええっと…」

煮え切らない私を、夏目くんが腕を組んで「なあ」と見下ろす。


「スイッチは自分で入れろ」
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