ラブ パラドックス
翌日。

午後7時にオフィスを後にし、エレベーターで1階に降りた。外は寒く、思わず両手をポケットに突っ込む。

今日は湯豆腐だな、なんて考えていたところに、背後から「あの、」と声をかけられた。


遠慮気味な、かわいらしい声。振り返ると、男受けがよさそうな小柄な女性で。白い肌。大きな瞳。黒っぽいブラウンヘアは長めのボブ。首元にファーの付いた、真っ白のコート。

何一つ確証はないのに、彼女が誰か、わかってしまった。


「トラスト司法書士事務所の方ですよね」

「はい」

「突然声をかけてしまってすみません。1階の歯科のものです。今日夏目さんは…」


ほらやっぱり。絶対あの子だ。夏目くんに電話してきた子。


「夏目は外出先から直帰です」

「そうですか」

「何かご用ですか?」

「いえ、大した用事じゃないので、あとで電話します」


にっこりと、かわいらしい笑みを浮かべるその人。怒ってないのに「怒ってる?」と聞かれる私とは大違いだ。


電話するんだ。

何の用だろう。


二人は、どういう関係なの?
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