ラブ パラドックス
***


「今日はほんとにごめん。ありがとう」

「お母さん大したことなくてよかったな」

「うん」


わたしのアパートの入り口前に、車を横付けした夏目くん。チェンジをパーキングに入れ、サイドブレーキを踏んで、ハンドルから両手を離した。

時刻は夜中の3時を回ってしまった。辺りは真っ暗で、しんと静まり返っている。


夏目くんは、母が運び込まれた地元の総合病院へ送り届けてくれたあと、救急の待ち合いでずっと待ってくれていた。

帰ったとばかり思っていたわたしは、驚いて、申し訳なくて、胸が熱くなった。


私たちが病院に駆けつけたとき、母は点滴中だった。

検査の結果特に異常は見られず、点滴が終われば自宅に戻れるという状態だった。


母はここ数日、風邪気味で体調が優れなかった上に、人に酔って立ちくらみを起こしたらしい。

ただその場所が、帰宅ラッシュ時の混雑した駅の構内だったため、近くにいた人が救急車を呼んで、大騒動になったと聞いた。
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