ラブ パラドックス
「お母さん、なんだか凄く年とってた」

私も年を重ねるのだから当たり前なんだけど、青白く、生気のない顔をした母を見て、不安な気持ちになった。


「25日の仕事納め翌日から実家に帰ろうと思う。仕事始めギリギリまで」

「そうか」

「毎年大みそかに実家帰って、せいぜい1-2泊だったんだけど、今年はゆっくり過ごしたい。お母さんと」

「ああそうだな」


母の体調が気がかりだし、普段離れて暮らす分たくさん話をしたい。昔のように、父が生きていた頃のように。

自ら離れてしまった母との距離を縮めたい。絆を深めたい。たった二人の家族だから。


夏目くんが、大きなあくびをした。ハンドルに突っ伏して、顔を隠しながら。

夏目くんは、今日大仕事だったし、長距離を運転してくれたから、すごく疲れているはず。本当に申し訳ない。


一刻も早く帰ろうと、ドアに手をかける。


「本当にありがとう。夏目くんが”言霊”って励ましてくれたでしょ?大丈夫って繰り返してたら、絶対大丈夫だって思えた」

「だろ?あれ効くんだよ」

「夏目くんがいてくれてよかった」


わたしだけだったら、マイナスのことばかりを想像して、自滅していたかもしれない。

病院に駆けつけることだって、できなかったかもしれない。
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