ラブ パラドックス
「じゃあまた明日」
「ああ」
感情を押し殺し、なんとか声を絞り出した。
夏目くんの車が立ち去るのも見送らず、アパートの部屋へ駆け出した。
「大丈夫」
言葉とともに吐き出した息が白い。
「大丈夫」
泣くな。大丈夫。
お母さん、なんでもなかったじゃない。
「大丈夫」
カンカンと、階段を駆け上がる自分の靴音が、寒い夜に響いては消えていく。
部屋の前、鞄の中を手探りで鍵を探す。
こういう時に限ってなかなか鍵が見当たらない。
「葉月!」
突然の夏目くんの声に、驚いて振り返る。
足音は全く聞こえなかった。
夏目くんが、白い大きな息を吐いて、すぐそばで立ち止まった。