ラブ パラドックス
「どうしたの?」


鞄に手をつっこんだまま、間抜けな体勢で夏目くんを見上げる。

夏目くんは何も言わない。

目に浮かぶ涙には、お願いだから気付かないで。気付かないふりをして。

甘えてしまう。頼ってしまう。


「わたし車の中に忘れ物でもしてた?」

「いや、お前、泣いてるかと思って」

「えー、大丈夫大丈夫」

「そうか。そうだよな。俺帰るわ」

「心配してくれてありがとう」


階段を駆け下りていく夏目くんに、きっと最後の言葉は届いていないだろう。


ありがとう。

夏目くんのおかげで、心強かった。


強くいられた。


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