ラブ パラドックス
「あとひとつは?」

「言いたいことと言うか、聞きたい」

「どうぞ」

「なんで今夜、スーツ屋の店長と会うんだ?」


どうしてそれを。と思ったけど、すぐわかったから口には出さなかった。中村くんから情報を仕入れたに違いない。


「前から約束してたから」

「ふーん」


釈然としない様子の”ふーん”の後、だんまりだ。

夏目くんが、ドアを押さえているほうの指先で、コツコツ、ドアを鳴らした。

耳元の、すぐ近くだ。


「クリスマスだしな」

「違う違う。そんなんじゃなくて、ただ私が年内仕事ラストだから。普通に食事しようって言われただけ」

「なわけねえだろ」

「あるよ。わたしはそのつもりだし」


何か言いかけた夏目くんが、不機嫌そうに口をつぐんだ。

いらだちを隠さず「クソッ」と吐いて、私を睨みつけてくる。


「前、あの人とは付き合わないって言ったよな」

「うん」

「あの発言は撤回か?」

「…しない」

「ふーん」


でた!

また”ふーん”だ。
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