ラブ パラドックス
わたしは結局、夏目くんの質問に答えなかった。正確には”言わない”と逃げた。

いないという回答は毛頭頭になく。


いると答えて、夏目くん以外の人だと誤解されるのも嫌だったし、追及されても困る。

はい。あなたが好きです。と告白する勇気なんて備わっていない。


夏目くんから、薄っすら好意のようなものを感じるものの、勘違いでしょ、と嘲笑う自分がいるし。

夏目くんにダメな部分ばっかり晒してるんだから、好きになってもらえるわけがない、と否定する自分もいる。


要するに、自分に自信がない。



「今年も来たよ。彼氏にスーツを贈りたいって女の人」

「そうなの?サイズ把握してた?」

「全然。丁重にお断りして、ネクタイとカフスをごり押しして、そちら2点を購入していただいた」

「ごり押し!でも店長、自ら売り上げ落としちゃっていいの?」

「当店は売り上げよりCSが大事ですから」

「わ。さすが店長。素敵な模範解答」


湊さんとは、今日も楽しい。

美味しい食事と楽しい会話。


恋愛感情を抜きにして、ずっといい友人関係を保っていきたい。


もしもそれが可能なら。
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