ラブ パラドックス
Chap.09 矛盾
病院に駆けつけると、夜間出入口から入ってすぐのベンチで、夏目くんが私の到着を待っていた。
「ごめん。遅くなった」
「いや、前田先生はもう病室にいる」
立ち上がり、こっち、と病室へ案内してくれる夏目くんは、職場で別れた姿のままだ。
家に帰っていたようには見えない。
「夏目くんは呼び出された時何してたの?」
「中村と、なぜかくっついてきた中村の彼女と、3人で飲んでた」
「そうなの?」
「なんか嫌な予感というか、胸騒ぎがして酒飲まなかった。そしたらこれだろ?」
「そっか」
「お前は?飲んだのか?」
「一杯だけ」
広いエレベーターの中、大きな鏡に私たちの姿が映る。
鏡越しに目が合ってるような気がする。でもそれがぼんやりしていて、よくわからない。
あの後、無事タクシーに乗り込んだのを見届けてくれた湊さんの「またね」と手を振る笑顔が浮かぶ。