ラブ パラドックス
俺のことは気にせず店には買いに来てほしい。夏目さんとうまくいくといいねって、ごめん言えない。でも凛子ちゃんには幸せになってほしい。俺がしたかったな。


湊さんが掛けてくれた言葉が、優しくて辛かった。タクシーでここに向かっている間中、やるせなくて気が滅入っていた。


「大丈夫か?」

「うん」

「体調悪いのか?生返事ばっかりしやがって」

「ごめん」

「何かあったのか?」

「ごめん」


いつものように言い返す元気がない。

夏目くんが、はあ、と肩を落としたのがわかった。


「緊急の呼び出しで前田先生に言う暇なかったとは言え、引き受けたんだからちゃんとやれ」

「ごめん、気持ち切り替える」



気持ち切り替えて、仕事しなきゃ。

遺す方にも、遺された方々にも、失礼のないよう完璧な仕事をしなきゃ。


エレベーターの扉が開いた。


清潔で整理整頓された詰所を通り過ぎ、最奥の病室の前で立ち止まった夏目くん。ノックをすると、中から聞こえてきた、前田先生の声。

ドアを開ける前に、小さく、深呼吸をした。
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