ラブ パラドックス
浴室の扉が閉まる音で目が覚めた。
静かな部屋の中。
それからすぐ聞こえてきたシャワー音で、はっと我に返って泣きたくなった。
目で見て確認しなくてもわかる。
素肌に感じるこの感触。
わたし、裸のままだ。
布団を抱きしめ、身震いがした。
身体の表面も内側も、夏目くんの感触がリアルに残っている。
どうしよう。
シャワーから出てきた夏目くんに、どんな顔をしたらいい?
ごめん。なかったことにしようって提案する?
それとも、気持ちよかったからいいよねって笑う?
どうしよう。
どうしよう。
そんなこと、言えるはずない。
なかったことになんてできないし、笑えない。
なんてことをしてしまったんだろう。
”恋人じゃない男と寝る女が嫌い”って、聞いてたじゃない。
パニックの頭が出した結論は、このまま顔を合わせず帰るという、最低なものだった。
せめて一言メモを残そうと、バッグから手帳を取り出し一枚破った。
いつ戻ってくるかわからないと、焦れば焦るほど、言葉が出てこない。
”帰ります”とだけ残し、逃げるように部屋を出た。