ラブ パラドックス
「いらっしゃいませ。葉月凛子様ですね。お待ちしておりました。中村 涼平と申します」
2週間ほど前、怪しげな占い師に遭遇した商店街の一角に、そのスーツショップはあった。セレクト物も多く扱うショップで、ご丁寧に出迎えてくれた中村さんは、夏目くんの高校時代からの友人だそうだ。
「俺の扱いと全然違うじゃねえか」
「バカじゃねえの?当たり前だろ」
中村さんは、ヒールを履いた私と同じくらいの身長で、さすがアパレル勤務。雰囲気からしてお洒落さんだ。
「ビジネスシーンで着用されるスーツを、ということでよろしかったでしょうか」
「はい。あの、そんな丁寧にしてくださらなくて結構です。夏目くんと同等の扱いをしてください。スーツ屋さんにあまり縁がなくて、緊張してるので」
中村さんは、まず私を見た。少し考え込むように伏し目がちに。それから夏目くんに移動した目線は、最終的にきょろきょろと店内を見回して、わたしに戻ってきた。
「陽と同等ってことは、友達だけど…」
「あ、はい」
「やった。こんな美人の友達できた。今度合コンしない?」
「おま、調子のんな。彼女に言うぞ」
「冗談だよ」
きっと中村くんは、クラスに一人は必ずいるお調子者枠だ。