ラブ パラドックス
夏目くんが隣に来たのが横目に見える。
「あけましておめでとう」
椅子に座った夏目くんの第一声だ。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
意識しすぎて他人行儀になってしまった。
部屋には私と夏目くんだけ。ほかの先生はまだ出勤されていない。
最低限のあいさつのみ交わし、仕事の準備を始める夏目くん。ノートパソコンを広げ、電源ボタンを押した。
大きな手を見るだけで思い出してしまう、あの夜の出来事。
もう一度、あの手に触れたい。
「葉月」
名前を呼ばれただけで、ぎくり、体がこわばる。普通にしようとすればするほど、ぎこちなくなる。
「お母さんの具合どうだった?」
「あ、おかげさまで。母からも夏目くんにくれぐれもよろしくって。母から言付かったものがあるから、また帰りにでも」
「悪いな。気を使わなくていいのに」
あの夜、病院では、母から夏目くんへの直接のお礼と謝罪の言葉は型通りの簡単なものだった。
場面を思いだせば、よく直接言えたなと思うくらいだけど、母は納得がいってなかったようで、地元の銘菓など、帰省終わりに大量に持ち帰らされたのだ。
「あけましておめでとう」
椅子に座った夏目くんの第一声だ。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
意識しすぎて他人行儀になってしまった。
部屋には私と夏目くんだけ。ほかの先生はまだ出勤されていない。
最低限のあいさつのみ交わし、仕事の準備を始める夏目くん。ノートパソコンを広げ、電源ボタンを押した。
大きな手を見るだけで思い出してしまう、あの夜の出来事。
もう一度、あの手に触れたい。
「葉月」
名前を呼ばれただけで、ぎくり、体がこわばる。普通にしようとすればするほど、ぎこちなくなる。
「お母さんの具合どうだった?」
「あ、おかげさまで。母からも夏目くんにくれぐれもよろしくって。母から言付かったものがあるから、また帰りにでも」
「悪いな。気を使わなくていいのに」
あの夜、病院では、母から夏目くんへの直接のお礼と謝罪の言葉は型通りの簡単なものだった。
場面を思いだせば、よく直接言えたなと思うくらいだけど、母は納得がいってなかったようで、地元の銘菓など、帰省終わりに大量に持ち帰らされたのだ。