ラブ パラドックス

「では近いところから行きましょうか」

「「はい」」

「僕運転します」

「よろしく」


わたしと夏目くんのデスクに、前田先生がわざわざ来てくださって、今日の申し送りをする。


年始はいつも、お世話になっている関係部署へのあいさつ回りで一日が終わる。

役所関係、銀行関係、企業、同業者など、前田先生と夏目くんとわたしで、今日一日ですべてを回るハードスケジュールだ。


「登記のほうも今日はみんな早く帰ろうと言ってるので、5時には仕事を終えましょう」

「「はい」」


前田先生が席を離れ、私は鞄の中身をチェックする。名刺の補充をしているところに、夏目くんが椅子を滑らせ近づいてきた。

ペタリ、開いたノートパソコンの右上に張られた、オレンジの付箋。


【仕事が終わり次第話がある】

驚いて顔を上げると、夏目くんは車のキーを人差し指で回しながら、私を見下ろしていた。


「今日は逃げるなよ」


言い捨てて、部屋を出ようとする夏目くん。ドアの前で振り返り「置いていくぞ」と冷めた笑顔だ。

先延ばしにしようなんて甘い考えだった。


仕事が終わるまでに、覚悟を決めないといけない。
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