ラブ パラドックス
「飯食って帰るか?」

ブラインドのわずかの隙間をぴしゃりと閉じながら、振り向きざまに聞かれても、かわいい反応ができない。


「まだお腹すいてない」

よりによって、いつもより低い声。最悪。これじゃ「ふててます」って言ってるみたい。


入り口の鍵を閉め、防犯をセットした夏目くんが可笑しそうに笑いだす。


なによ。

睨みつけると声を出して笑われる始末。


おかしいな。

わたしたち両想いなんだよね。


付き合うんだよね?

夏目くんの態度を見てると、自信がなくなってきた。


そんな夏目くんを放っておいて、一人エレベーター前に立つ。

すぐ追ってきて後ろに立った夏目くんが、知らんぷりするわたしに耳打ちをした。


「早く二人きりになろうぜ」


耳をくすぐる夏目くんの声。

高鳴る鼓動、朱に染まる頬。


俯く私に、さらに追い打ちをかけてくる。


「今夜うちに泊まれよ」

「…泊まってあげてもいいよ」


底なしの嬉しさと恥ずかしさをぐっと抑え込み、クールに言ったつもりだけど、夏目くんのニヤリ顔を見ると、心情がダダ漏れだと察した。
< 193 / 294 >

この作品をシェア

pagetop