ラブ パラドックス
「わーおいしそう」

「は?お前のねえよ」

「うそ…」

「悪い。女のこと全然わかんねえから、自分のしか買ってない」


からっと、悪びれもない台詞。並べられたデリの量はどう考えても二人前。うーん、それ以上ありそう。

キッチンに行き、電気ケトルでお湯を沸かそうとしている夏目くんの隣に立つ。


「手伝う」

「座っとけよ。心配しなくてもちゃんとお前のもあるから」

「ありがと。でも何かさせて」


カチ、ケトルをセットした夏目くんが、背後からふわりとわたしを抱き寄せた。


くすぐったくて、どきどきする。

回された腕に触れ、少し、身体を預けた。


言葉を発しない夏目くんの後ろで、お湯が沸き始めた音がする。


「おまえさあ」


耳のそばで、夏目くんの声がする。

きっと、二人きりの、特別な距離。


「俺に言うことあるだろ」

「言うこと?」


腕の中で顔をひねり、夏目くんの顔を見上げる。

目を見ても、答えをくれそうな雰囲気は感じとれない。


うーん…
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