ラブ パラドックス
「俺とあの人では、恋愛経験値が違いすぎるだろ」

「経験値?」と眉をひそめた涼平が続ける。

「お前もモテ人生を過ごしてきたんだろ?俺からしたら嫌味にしか聞こえないんすけど」

「俺まともに付き合った経験ねえし。だから女心もわかんねえし。でもあいつのこと喜ばしてやりたいし、ほかの男に絶対取られたくない」

「は?まともにってお前、高校の時も付き合ってた彼女いただろ」

「いねえよそんな相手。あの頃の俺は水泳が全てだったの、お前も知ってるだろ?学校休んで国内外に遠征遠征。強化試合に強化合宿。水泳の合間に学校行ってた俺が、いつ彼女作れるんだよ」

「うわ、そうか。え、じゃあお前の初体験は?」

「泳げなくなってどん底にいたとき」

「え、ガチで?相手は?」

「それは言う必要ないだろ」

「えー、聞きたいだろ」

大げさに口を尖らす涼平は、テーブルの端に立ててあるタッチパネルを操作しながら、次何飲む?と聞いてきた。


正直もう、その相手の名前も顔も覚えていない。

大学の寮に居られなくなった俺に居場所を提供してくれただけの人で、感謝はしたもののなんの感情もなかった。

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