ラブ パラドックス



恋人の身内に会うという人生初のイベントにそこそこ緊張していた俺は、だらしなく緩む顔を引き締めるのに必死だった。

(以前葉月の母親に会ったことがあるが、あれは付き合う前で、おまけに緊急事態だったのでノーカウントだ)


今朝、葉月からの突然のアポ取りの電話だったにも関わらず、葉月の幼馴染は19時以降店にいるようにする、と時間を作ってくれた。

日本酒の試飲会も、夜のことが気がかりで気持ちよく飲めなかったが、自宅用数本と、幼馴染への手土産もちゃっかり購入した。

日本酒のスパークリングを葉月がとても気に入ったので、今夜帰って早速開ける予定だ。


「凛子はあっちでまつエクでもしとけ」

「目を瞑らそうとしないでよ」

「じゃあ、誰か手の空いてるスタッフにトリートメントさせるからあっち行け」

「無理。ほんと怒るから。夏目くんと二人きりになろうとしないでよ」

「陽、髪きってやるよ。あっち行こうぜ」

「切らないから!」

「じゃあヘッドスパかマッサージしてやるよ。全身くまなく」

「もう!だめだって!」


葉月が俺の腕をつかんで離さない。

ギュ、と身体を密着させて、もういい帰ろう。と結構本気だ。
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