ラブ パラドックス
夏目くんは誰もが知ってる有名私大の法学部出身だ。競泳の強豪校かどうか知らないけど、偏差値はかなり高い。

夏目くんから水泳のことを聞いたことなかったし、今はもう、泳いでないように思える。

あ、それで肩幅広いんだ。


「どうせ聞かれるだろうから言っとく。もう泳いでない」


どうして?とは聞けなかった。あっけらかんとした口調で教えてくれたけど、将来有望だったのにやめてしまったということは、結果を残せず終わった可能性が高い。

そうなると、当然、人に聞かれたくないはずだから。


「お前意外と気を使うんだな。もっと遠慮なしに聞いてくるかと思った」

「だって…」

「高校の時がピークだった。全然タイムが伸びなくて焦りまくった結果、オーバーワークでスイマーズショルダー」

「スイマーズショルダー?」

「ここの肩甲骨のじん帯と上腕二頭筋の腱がこすれると炎症を起こすんだけど、痛みを我慢して練習量増やしたら肩が壊れた」

手で、自分の肩を触りながら教えてくれた。


「それが大学1年の冬。水泳で大学引っ張られてるだろ?居心地の悪さハンパなかった。1年堕落した生活送って、何やってんだって目が覚めた。そうなったらもう、勉強するしかねえじゃん。それで勉強しまくって、書士の資格取った」


夏目くんは、ふう、と一息ついて、人差し指で鼻頭を触った。

「人生終わったくらいの挫折を経験したから、相当メンタル強いぜ?」


大きな挫折を笑って話せる夏目くんを、心底かっこいいと思った。
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