ラブ パラドックス
あれは確か10月だった。酔って立ったまま寝ていた凛子に肩を貸したっけ。

実はあの時肩が攣りそうになるくらい力を入れていた。緊張したし、動悸かってくらい心臓がうるさかった。

いい匂いがした。細いのに柔らかくて、とにかく『女』を意識してやばかった。

凛子を好きな気持ちがだだ洩れないように。触れる肩からばれてしまわないように。


あの時、今日がターニングポイントだと凛子が助言された時、俺に言われたのかと思った。

恋人がほしいと公言する凛子に恋人ができてしまえば、俺はこの気持ちを消せるんじゃないか。

でも凛子がほかの男と幸せになるところを、黙って見ていられるのか。


いやそれは仕方がない。俺はとにかく仕事に注力するという絶対的な目標がある。

ちょっと待て。今日残りわずかな時間が凛子にとって重要な時間であるなら、その時間を俺と凛子が一緒にいたら、凛子の気持ちが俺に?


でも―

それでも—


そんな矛盾(パラドックス)とひたすら葛藤していた。
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