ラブ パラドックス

ベッドに横になって、部屋の照明を絞る。スマホを充電器につなぐ前に、SNSをチェックしてから、日課の付箋アプリを開いた。

開いたものの、なかなか入力する気にならずアプリを閉じ、充電器につなぎ、枕元に置いた。

布団をかぶり目を閉じる。眠れる気がしなくて、ゴロゴロと何度も寝返りを打った。夏目くんの経験談が衝撃的で、自分を褒めるなんて考えられない。


あの後、電話を終え戻ってきた中村くんが当時のデータを見せてくれた。その中の一つに、表彰台で金メダルを首にかけ、誇らしげに笑う、今よりずっと幼い夏目くんがいた。

挫折を乗り越えてのあのポジティブだと思うと、尊敬の念に堪えない。

夏目くんといると、私まで前向きになれる。

できそう。がんばれそう。と自然とそう思える。


スマホを手に取り、再度付箋アプリを開く。画面の光がまぶしくて思わず目を細める。


【スーツを新調してよかった】

【新しい友人ができた】

【夏目くんをすごいと思えてすごい】


それから、夏目くんにメッセージを送った。 明日職場で会えるけど。

別に今、わざわざ送らないといけない理由なんて、どこにもないけど。


【今日はいいお店紹介してくれてありがとう。付き合ってくれてありがとね。おやすみ。また明日!】


送ってすぐ寝てしまったらしく、夏目くんからの返信スタンプを見たのは翌朝だった。
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