ラブ パラドックス
「わるい、言い過ぎた」

無視して給湯室から出ようとしたところを、腕をつかんで引き留めらる。振りほどこうとして手を振り回すと、グイと引き寄せられた。

「ちょっとやめてよ」

「じゃあ俺の話聞けよ。そんな怒んな」

「怒ってない!」

「聞けって!」

目の前に夏目くんの顔があった。もちろんこんな近くで見たのは初めてで、怒ってるのに、胸がドキドキするのがわかる。

目がパッチリ大きくて、鼻筋の通った、整った顔。


「ごめん。失言だった」

「…もういい」

「ごめんな」

「わたしもごめん。大人げなかった」

「いや、」


すっと目線を逸らした夏目くんが、わたしから離れた。ドキドキが止まず、どうしたらいいかわからない。


「エアコンの吹き出し口の前でお昼食べたら?前田先生のヒーターの前もいいかも。ちゃんと乾かしたほうがいいよ」

「あ、ああ、そうだな」


給湯室から出ていく後ろ姿を目で追う。濡れて、体に張り付いたYシャツが男っぽくて。

引かれた時の、あの力強さ。素直に謝ってくれた時の、あのまっすぐな瞳。


ただの同期だと思っていた夏目くんに対して、まだこんなにドキドキしてる。

これはいったい何?
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