ラブ パラドックス
「川原コーチ!」

「陽!」


クラブを変わった小学校低学年から中学校卒業まで、俺を育ててくれた恩師だ。

相変わらずコワモテの顔が笑顔で握手を求めてくれるから、その手を引っ張って力いっぱいハグだ。

やべえ!懐かしい!


「ご無沙汰してます。お元気でしたか?」

「おー、陽も元気そうで安心した。陽が何やら偉い先生になってセミナーしてるって聞いてウソだろと思って冷やかしに来た」

「冷やかしでも嬉しいです。それにそんな偉くないです」

「いや。立派になった」


ここまで伸びたか。と俺を見上げるコーチ。あの頃は、世界で1番怖い人間が川原コーチだった。

でもそれ以上に感謝している。街のスイミングスクールで泳いでるところを引き抜いてくれて、あそこまで育ててくれた。


あれから10年。水泳を辞めたことを直接言えないままだった。


本来なら、1番に会いに行かなきゃいけなかった人だ。

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