ラブ パラドックス
両手にスーツの箱。それに傘を持ってお店を出た。プラス、肩にはトートバッグをかけていて、ずれるばかりして歩きにくい。

はあ最悪。とにかく駅まで頑張ろう。


「待って!」

後ろから呼び止められて振り返ると、店長さんだった。


「俺車なんで、家まで送りますよ」

「え!いいですいいです。ほんと、大丈夫ですから」

「ほかのスタッフの前で言うわけにはいかなくて、追いかけてきました」

「え?」


両手の荷物をさりげなく持ってくれようとするから、こっちもさりげなく遠慮する。ええっと、これって、もしかして。


「送らせて」

いつの間にか、敬語じゃないし。

まさかの展開にどうしたらいいか決めあぐねているわたしに、店長さんが「ね?」と微笑む。


断る理由がない。実際問題、とてもありがたい申し出だ。


「お願いします」

「やった。俺もうあがりだから、少しだけ待ってて」


子どもみたいな、屈託のない笑顔。

これはすごいことになってきた。
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