ラブ パラドックス
「おい、葉月、おい」

「ん」

「立ったまま寝るな。すげえな。器用すぎる」

「寝てないし」


嘘。確実に意識飛んでた。全力で重い瞼をこじ開ける。

「あと二組だから、それまで俺に寄りかかっとけ。少しは楽だろ」


伸びてきた長い腕。大きな手のひらに頭をぐいと引かれる。落ち着いたのは夏目くんの右肩だった。確かに安定感がある。これは厚意に甘えよう。


「すまんねえ、夏目くん」

「前田先生の物まねしてんじゃねえ」

「似てない?」

「似てない。言っとくけど俺の肩高えぞ」

「体で払う」

「全然足りねえよ」

「おい」


笑顔で目を閉じた。10月の夜風と、久しぶりの人のぬくもりは心地よかった。
< 7 / 294 >

この作品をシェア

pagetop