ラブ パラドックス
「よしできた!腹減った!」

「ささ、どうぞこちらへ」


大きく伸びをした後、お腹をさすって、子どもみたい。

ダイニングテーブルがない我が家。いつもアイランドキッチンのカウンターで食事をしているので、料理を続けながら夏目くんを呼ぶ。

二脚あるカウンターチェアは、何を隠そうDIYデビュー作だ。


「今煮込んでるから、出来上がるまでこれでもつまんでて。ビール飲むよね」

「サンキュ」

カセットコンロをセットして、わかめときゅうりの酢の物、なすのお浸しと揚げ出し豆腐を並べ、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。

夏目くんにグラスを手渡し、そこに並々とビールを注ぐ。


「葉月も」

「お。ありがとです」


乾杯をしたあと、一気に飲み干した夏目くん。飲みっぷりの良さに触発され、私もぐびぐび一気だ。


「酔っぱらうなよ」

「大丈夫大丈夫」

「ほんとかよ。それにしてもお前、いつの間にこんなの作ったんだよ。しかもうまいし」

夏目くんは、茄子のお浸しから箸をつけ、どんどん食べすすめていく。

「作り置きもあるから」と平然を装う。自分の手料理を人に食べてもらうのは、いつだってちょっと照れくさい。
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