僕の星
 喫茶みちしるべ――

 昭和レトロな外観だけど、中に入ればこぎれいな、落ち着いた雰囲気の店だ。静かなピアノ曲が流れている。
客は初老の男性が1人。観葉植物の向こうで新聞を読んでいるのが見えた。

「わ、あったかい」

 里奈はコートを脱ぐと、ほっとした。海風にさらされて冷たくなった頬が上気して赤くなるのがわかり、思わず手で押さえる。

「こんな店があったのか」

 進太はめずらしそうにキョロキョロした。地元の若者にはあまり知られていない喫茶店らしく、春彦も初めて入ったと言っている。
 店員にコーヒーを頼むと、3人はあらためて向かい合った。

 里奈は明るい場所で進太を見て、その垢抜けた様子に言葉を失う。もともと美形とはいえ、以前は本当に普通の高校生だったのに、今はきらめくようなオーラを纏っている。

 プロのモデルになったとは聞いたが、こうも変身するものなのか。

 里奈に穴が開くほど見つめられ、進太は居心地悪そうにする。もじもじすると、里奈の隣で頬杖を付いている春彦に視線を移した。

「あまりジロジロ見るなってさ、里奈」

 春彦が進太の様子に気付き、肘で里奈を突いた。

「え? あっ、ごめんなさい」

 今度は里奈が恥ずかしそうにもじもじする。そんな二人を、春彦はただ見守っている。


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