僕の星
「あの日、五重の塔のところで、森村さんは皆から離れて立っていたね。すっとした佇まいと、真面目な顔つきと、どこか寂しそうな風情に僕は惹かれた。あの状況の中、かえって君は目立っていたと言える。僕はだから興味が湧いて、律子ちゃんに頼んで君を呼んでもらったんだ」
里奈と進太が初めて出会った、修学旅行の一場面だ。
急に饒舌になった進太に戸惑いつつも、里奈はその場面を目に浮かべる。
「君はずいぶん緊張していて、まるで男に免疫が無い感じが僕には新鮮で、ああ……その時、僕は好きになりそうな予感がしたのさ」
演劇的な台詞に里奈はむずがゆくなるが、進太はいたって真剣である。
「そして、信じられないことが起きた。君は転びそうになって、僕のほうへ倒れてきた。僕はとっさに受け止め、その瞬間、恋に落ちていたよ……」
「あ……」
里奈はいたたまれなくなり、空のカップを見下ろす。
そんなこと、まったく考えもしなかった。
「あれから僕は悩んだ。君とどうにか付き合いたいと思って、メールを律子ちゃんに転送してもらったよ。でも、君は無視をした。それどころか、よりによってあの滝口春彦とも出会っていて、あいつのほうに気があるという」
段々興奮してきたのか、進太の声は大きくなった。カウンターの向こうから、マスターが訝しげにこちらを窺っている。
里奈と進太が初めて出会った、修学旅行の一場面だ。
急に饒舌になった進太に戸惑いつつも、里奈はその場面を目に浮かべる。
「君はずいぶん緊張していて、まるで男に免疫が無い感じが僕には新鮮で、ああ……その時、僕は好きになりそうな予感がしたのさ」
演劇的な台詞に里奈はむずがゆくなるが、進太はいたって真剣である。
「そして、信じられないことが起きた。君は転びそうになって、僕のほうへ倒れてきた。僕はとっさに受け止め、その瞬間、恋に落ちていたよ……」
「あ……」
里奈はいたたまれなくなり、空のカップを見下ろす。
そんなこと、まったく考えもしなかった。
「あれから僕は悩んだ。君とどうにか付き合いたいと思って、メールを律子ちゃんに転送してもらったよ。でも、君は無視をした。それどころか、よりによってあの滝口春彦とも出会っていて、あいつのほうに気があるという」
段々興奮してきたのか、進太の声は大きくなった。カウンターの向こうから、マスターが訝しげにこちらを窺っている。