僕の星
「でも、どうしても君のことが忘れられない。高3の夏休みに学習合宿を抜け出して名古屋に行き、律子ちゃんに頼んで、君を呼び出してもらった。あの時の君の不愉快そうな顔、憶えているよ」
「ごめんなさい」

 里奈は身を縮めて謝る。進太は首を振ると、

「いや、それはいいんだ。騙し討ちにしたのはこっちだからね。それより、僕に関心がないと言った、君の言葉がこたえたよ」

 ズキンと胸が痛む。里奈は進太に向かって頭を下げた。

「それを謝りたいって思っていたの。ごめんなさい。本当に、無神経なことを言いました」
「違うんだ」

 進太は強く言い、里奈の顔を上げさせた。彼の表情は穏やかだった。

「僕はそれで、ふっきれたのさ。君と僕は、縁が無いということに気付いて」
「縁……」
「つまり、運命じゃなかった。それが分かって、きっぱりとあきらめることができたのさ」

 進太は残りのコーヒーで唇を湿らせると、ふっと息をつく。

「その点、春彦は違う。岐阜の、金華山とかいう山だったかな? 君はそこで、あいつと偶然出会ったと言うじゃないか。同じ時間、同じ場所に偶然居合わせるなんて、普通はありえない。ねえ、森村さん。そういうのってさ……」

 進太は窓の外に目を向ける。
 里奈がその視線をたどると、春彦が立っているのが見えた。コートのポケットに手を突っ込み、夜空に浮かんだ青い月を見上げている。

「そういうのって、星の巡り合わせだと思わないか」
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