僕の星
 ホテルルームに戻ると、里奈はバスタブに湯を張り、裸の身体を沈めた。

「春彦、私も……」

 春彦に届かなかったつぶやきを、もう一度口にする。
 抱えた膝の上にちょこんと顎を乗せて、彼を思う。

 里奈が女になってきたのと同じく、春彦も男になっているのだ――

 彼の顔から少年っぽさが消えたのはいつ頃だろう。肩や背中、腰の線にもがっしりとした幹が存在している。気が付けば、精悍な男性が隣にいた。

 身体の変化ばかりではない。
 精神的にも、どこか余裕が感じられる。一人暮らしに慣れたせいだろうか。それとも、大学二年になり、後輩ができたから? いろいろ考えるけれど、確かなことは分からない。
 この頃、春彦が急に大人びてきたような気がする。彼の何もかもが、里奈には刺激的だった。

 刺激といえば、もうひとつ。友達のゆかりのことが、春彦への意識を増幅させていた。
 ゆかりは他大学の、森崎という男性と付き合っている。そして、里奈にさまざまな報告をするのだが、その中にセックスも含まれていた。

 性急な展開を心配したけれど、ゆかりは里奈が思うよりずっと好奇心が旺盛で、知識も豊富で、そして用心深かった。

 置いてけぼりの寂しさを感じるけれど、そんな里奈の心を知ってか知らずか、淡々とあっさりと、ゆかりはそれを語った。でも、彼女の瞳には情熱の色が垣間見えていた。

 里奈はそんな彼女に羨望を抱くことがある。自分でも戸惑ってしまうような、心の変化だった。

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