僕の星
 里奈はバスルームを出ると、ドレッサーの大きな鏡に、自分の裸体を映してみた。
 これまで、自分の身体をまともに見たことがない。何となく恥ずかしくて正視できないので、必要最低限の観察に留めていたのだ。

 でも、今夜は見てみたかった。自分が本当に女に変身しているのか、確かめたかった。

 そして里奈は驚く。
 確かに、きれいだと思った。乳房は大きくはないが、張りがあり、それでいて白く柔らかそうに存在している。腰から生まれた曲線は、尻から脚へと滑らかに流れている。

 向きを変えて後姿を見ると、女の身体になっているのがありありと分かった。いつの間に、こんな身体になっていたのだろう。

 里奈は慌てて、全身にバスタオルを巻きつけた。

 ――もう限界かも

 春彦の熱っぽい声が、耳の奥でこだまする。

 私が男だったらと、里奈は考えた。この身体を見て、果たして平常心でいられるだろうか。
 いられるわけがない――

「春彦、私も同じ気持ちだよ。でも、やっぱり怖い……」

 別れ際、もう一度キスしたのを思い出す。
 そのキスは、取り乱したことを詫びるような、優しい触れ方だった。里奈を見つめる彼の眼差しは、壊れやすい細工物を愛しむように、穏やかで温かい。

 激しさを封じ込め、彼は里奈を守っている。



 明日の朝10時に、ロビーで待ち合わせる約束をした。
 里奈は寝過ごさないようにアラームをセットしてベッドに潜り込むと、春彦の故郷の静かな夜の中、深い眠りに落ちていった。


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