雨のち、君と。
「はー、人がいっぱいいた。」
「疲れた?」
買い物はあまり好きな方ではないが、少しも疲れを感じなかった。でも生は慣れない場所で多少疲れているように見えた。
「んーん、楽しかった。」
嬉しそうにがさごそと袋を漁っている。初めて会った日とはまるで別人だ。きっとこうやって笑う子だったんだろう。
記憶を失う前はどんな子だったんだろうか。俺の知らない生は、どういう風な生活をして何を感じて生きていたんだろう。
「…なにか思い出した?」
好奇心、だけじゃなくなっていることに俺はもう気づいている。生の色んな面を見るごとに、気になって仕方がない。
力なく首を横に振った。少しだけ悲しそうな顔をして。光のない目をした。
…もしかして生は、思い出さないんじゃなくて''思い出したくない''のではないか。
そんな考えがよぎった。
思い出したく何かが生の過去にあるのかもしれない。俺にはわからない。触れられない。
「蒼弥、ありがと。」
ふと生に目をやると買った服を嬉しそうに自分に合わせていた。うん、良く似合っている。
なんか少しだけ照れ臭くて、返事の代わりに頭を撫でた。目を細めて笑う生。
「今日は俺が作るよ、ご飯。」
「蒼弥作れるの(笑)」
「な…!これでも立派な大人ですぅ。」
「じゃあ一緒に作ろっ。」
ぴょんっと起き上がった生は俺の手をとってキッチンへ向かった。