雨のち、君と。
日が落ちた後に降り出した雨。ああ、明日の朝までには止んでくれればいいなあ。
窓際に立って、生は静かに外を見ていた。振り向いた時、蒼色の右目の奥が潤んで揺れた。
「雨を見ると、ここがぎゅーってなるの。」
胸のあたりを押さえて、俯いた。
知らない顔をしている。見たことない。
顔を上げると、また外に目をやった。静かにただ雨を見つめている。
オッドアイの蒼色の右目から、一粒、涙がこぼれた。ぽたっとやけに響く音。生は雨を見たままだ。
「思い出さなくていい。」
気付いたら動いていた。窓際の生を後ろから抱きしめる。そんな辛い過去なら、思い出さなくたっていい。ここにいればいい。俺といればいい。
くるっと俺の腕の中で身体を反転させた生から言葉はなかった。ただ少しだけ笑った。儚く、それでいて美しく、笑ったんだ。そしてそっと、華奢な身体を寄せた。
おやすみ、とか細い声で呟いてから静かに布団に潜った。…なにか思い出したのだろうか。
いつも通り、ベッドの隣のラグに横になる。ああそろそろ布団買おうかな。
「蒼弥、起きてる?」
「起きてるよ、どうした?」
「…なんでもない。」
少しだけ布団から顔を覗かせて、また布団に潜る。
「なんでもない禁止ね。」
「…なんでもない。」
「なんでもなくない。」
布団を引っ張ると拗ねたように頬を膨らませる。
「蒼弥、」
なにか言いかけてから生は俺へ手を伸ばした。
…なに、これ、誘ってんの?
「ほら、もう寝な。明日もご飯作ってくれるんでしょ、起きれなくなるから。」
布団を丁寧に被せてから、そっと髪に触れた。優しく、優しく。
「おやすみなさい。」
小さく微笑んでから、目を閉じた。
「…っ、はー。」
生の知らない顔を見た。俺が見たことのない顔をした。
…それが、なんだか悔しかった。
俺の知ってる生なんて、きっとほんの一部なんだ。記憶が戻ったら生は俺を頼らない…?ここから出て行ってしまう?
考えたくない、と思ってしまった。あっという間に生は俺の生活に、俺の中に入ってきた。