しつこいよ、長谷部くん
うわ、なんか悔しい。
よく考えれば、彼のせいでのミスではなく自分の集中力が切れていたせいだし。
彼はそれを自分のせいにさせて、そこから話の方向を変えて、私の心を軽くしてくれたのか。
「………ありがと」
仕方ないから小さい声でそう呟くと、目前の長谷部くんが固まった。
目を輝かせて。
「先輩、今ちょっと聞こえなかったのでもう一回……」
「は? 聞こえてただろ」
「ごめんなさい、ちょっと耳がおかしくて。もっかい言ってください……!」
「やだ」
そこまでオマケをつけてあげる馬渡ではない。
すっかり調子の戻った私は、長谷部くんを置いて部室方向に走った。
「ちょーっとせんぱぁーい」
追いかけてくる長谷部くん。
追いつかれまいと逃げる私。
もう一度なんて、言ってやるものか。
「先輩っ」
意地でも捕まらないと頑張ったのに、長く速い足を持つ彼には追いつかれてしまった。
男子と混ざっても、私の足は速い方なのに。
ちくしょう、また悔しいじゃないか。
「まーたり先輩、お願いもっかい!」
「やだってば」
「そこをなんとか! まーたり先輩の声が小さくて聞き間違えたかもしれないから!」