しつこいよ、長谷部くん
いつだったかな、どこだったかな……。
うーん………。
考えても考えても答えが見えず、私はそれを放棄して、顔を上げた。
「………可愛いな」
未だに嬉しそうにする長谷部くんがいて、小さい声だったけれど言葉が溢れてしまった。
「先輩、今なんて言いました?」
「何も言ってないけど」
「えー、うっそだぁー」
「ホントホント」
聞こえていたのか、と慌てたが、そうではないことを理解した私は、至って冷静を保ちながら溢れた言葉を回収した。
危なかった……。
「え、何が?」
「先輩? どしたんです、何がって?」
「え、あ、いや、気にしないで」
何が、危なかったって……?
自分の口から出た言葉に驚いた。
何が……本当、何がだろう。
考えを巡らせて、整理しようと試みる。
まず、嬉しそうにする長谷部くんを見て、和むなぁ、と思った。
そしたら、なぜか「可愛い」なんて口走っていた。
それについて聞かれてしまうも、ちゃんとは聞こえていなかったようだから、うまくはぐらかせた。
そこで、何かが危なかったと思った。
で、何が危なかったのかわからなくて、慌てている。
はい以上まとめ。
………何してんだ私、意味不明。
「アホは私だ……」
小さく呟くと「アホな先輩も好きですよ」とラブコールがかかり、私は咳き込んだ。
ほんっとしつこいよね。
でも、おかしいな。
その時の笑顔も、やっぱり可愛いと思う自分を見つけた。