しつこいよ、長谷部くん
「ありがとう、紫乃」
「うん」
さゆから渡されたクッキーの入った皿を手に、私は雑談から仕事に戻った。
「佐野も長谷部先輩も、なんで年上にあんなにグイグイ行けるんだろな」
「それな、俺も思ってた」
「自信あるからだろうな、やっぱスタメンイレブンは格が違うな」
「イケメンだし技術あるし、ずりーよなー」
そのクッキーを注文したテーブルに向かうと、そんな話が聞こえた。
2人の男子は、男子サッカー部のスタメン入りしていない1年生。
盗み聞きをしてしまって申し訳ないが、さっきの言葉には誤りがあると思った。
だって、長谷部くんは自信だけでサッカーも恋も出来ているわけではないからだ。
佐野くんがどうなのかはわからないけれど、1年でスタメン入りしているのは相当なプレッシャーだと思う。
多分彼も、長谷部くんと変わらない。
「お待たせいたしました」
「あ、馬渡先輩! ありがとうございます」
クッキーを置いて、私は後輩に助言した。
「自信がなくちゃやってられないことはあると思うけれど、彼らには彼らなりの苦労があること、わかってやっといて」
言ったあとで、こんなことを自分がするなんて、と少し驚いた。
後輩は、私の言葉を聞いて考えて納得したのか「はい!」と力強く返事をした。