しつこいよ、長谷部くん





「それはないっしょ……」



数秒、呆然と立ち尽くした私。


だが、そうしていても何も進まない。


どうせこの扉を開けて拒否したところであのしつこい長谷部くんだ、無理やりにでも私がこれを着るように仕向けるだろう。



「しつこい男って、ほんとやだ」



ぐちぐち言いながらも仕方なく、執事の格好をやめてメイド服を着ることにした。


なんでだろう。


なんで、メイド服を着ることに対して、簡単に諦めがついたのだろう。


今までの私だったら、何が何でもこの状況を変えようとしたのに。



「認めたくないな……」



そうはいっても、なぜ諦めがつくようになったのか考えられるのは1つだけ。



「せんぱーい、着替え終わりました?」


「……うん、終わった」



返事をすれば、カラカラとゆっくり音を立てて開かれる扉。



「わぁ、まーたり先輩かわいい……」



ひょっこり出てきた顔は、嬉しそうに、でも少し恥ずかしそうに笑った。


可愛い、なんて、言われたことがなくて少し顔が赤みを帯びてくるのを感じる。



「すっごく可愛くてちょっと俺が照れてきました……っ」



なんて言いながら扉から出てきた長谷部くんの体に、私は目を丸くした。



「え、長谷部くん、その格好……」






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