白衣とメガネと懐中時計
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時刻は23時を少し過ぎたころ。
もうほとんどの社員が帰宅してしまい、照明が落とされているが、あたしのデスクの周りだけは明かりが灯っている。
新入社員の頃は、この残業時間が不気味だったりしたのだが、もう8年も過ぎれば慣れてしまうものだ。
(株)夏目繊維
化学繊維を使った布を商品とする会社だ。
その開発部の研究員のひとりがあたし、稲村茉咲(いなむらまさき)。
大学で高分子化合物を学んだあと、この会社に就職して、合成繊維の主にナイロンについての研究と開発を担当している。
「あーあ」
身体を伸ばして、瞼を指でおさえた。
研究の邪魔になるからと、眼鏡からコンタクトレンズに変えてから、目が疲れやすくなった気がする。
研究では保護メガネが必需品だ。
普段からメガネを掛ける人だと、メガネOnメガネで邪魔になる。
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