白衣とメガネと懐中時計
「というか、そもそも、なんでこんな時間まであんたが残ってんの?」
奴から時計を奪い返しながら、話題を逸らす。
翔平は素直に時計を手放すから、時計は再び、あたしの白衣のポケットに戻った。
「資料室にこもって、文献あさってた」
「え、いつから!?」
あたし、何度も資料室に足を運んだが、翔平の存在に気付かなかった。
「夕方からずっと。お前が何度か来てたことも知ってる」
知らない。無人だと思ってたから、鼻歌唄っちゃったよ、あたし。
「今はまだ秋だっていうのに、赤鼻のトナカイとはだいぶ気がはやいな」
うっ……やっぱり聞かれてたか。
クリスマスソングって、テンション上げやすいんだよなぁ。
「彼氏とクリスマスデートがそんなに楽しみか?」
彼氏とは誰のことだ、と首を傾げかけて、2週間前に別れた康太(こうた)のことだと気がついた。